台湾のインディーズ音楽が、なにやらすごいらしい。数年前から囁(ささや)かれていた、漠とした「なにやらすごい」の正体を明らかにしようとする試みは、楽曲分析によるものがほとんどだった。しかし、台湾の音楽を語る以上、政治というトピックは切っても切り離せないほど、密接に結びついている。まずはそのことを紐(ひも)解かなければならない。
音楽はときに民族や政治の問題、あるいは差別をきっかけに対抗文化として生まれ、成熟してきた。台湾の文化を追うジャーナリスト・神田桂一さんは、関係者を取材し、台湾をめぐる政治と音楽のかかわりを追うことで、台湾インディーズ音楽の実態を明らかにする。
(文=神田桂一 トップ写真撮影=Takeshi Hirabayshi)
「インディーズ音楽」は台湾独立のメタファー
今、東アジアの若者を中心に、台湾のインディーズ音楽が盛り上がっている。日本も例外ではない。近年では、日本の数々のミュージックフェスティバルに出演する台湾インディーズミュージシャンも多い。それでは、台湾のインディーズ音楽とはいったいどのようなものなのだろうか。 台湾の老舗ライブハウス「THE WALL」の店長・スパイキーさんはこう語る。
「台湾のインディーズ音楽は若者の政治意識の高まりとは無関係に、とてもおしゃれで、ノンポリティカルなものになりました。しかし実は、もともと政治の影響を強く受けた、泥臭いものだったんです」
「90年代までは国民党反対という、反権力の象徴。インディーズ音楽は、中国語で『独立音乐』と書きますが、この独立は、台湾の独立という、ダブルミーニングなんですよ」
スパイキーさんは現在もライブハウスの店長をやりながらDJとしても活動し、THE WALLのフロアを沸かせる存在だ。日本の音楽シーンにも明るく、インディーズ時代のYogee New Wavesや、先日惜しくも解散を発表したシャムキャッツなど、数多くのインディーズミュージシャンを台湾に招聘(しょうへい)してきた。
「『閃靈樂團』(ソニック)という有名なインディーズバンドがいて、ボーカルのフレディ・リムは議員になっています。彼はイベントオーガナイザーもしているのですが、彼の事務所の名前は、『台湾独立音楽協会』。絶対に政治的な意味も含まれているでしょっていう(笑)」
「台湾で、もっとも有名なフェスのひとつである『THIS WORLD MUSIC FEST@Formosa』も、この台湾独立音楽協会が主催だったのですが、徐々に政治色が消え、音楽が洗練されていくとともに、インディーズ音楽のイメージもすごく変わりました。日本のオルタナシーンから受けた影響も大きかったと思います。ナンバーガールやGOING STEADYなどを聴きながら、徐々にファッションや音に変化が出始めました」
台湾インディーズ音楽、アジアでの台頭
台湾は多民族であり、その民族音楽の影響を受けたサウンドや日本のシティー・ポップ(山下達郎や大滝詠一など)をいち早く取り入れ、言葉の壁に左右されないインストゥルメンタルの音楽が多いことなどが、ブームの一因だと筆者は考える。
台湾のインディーズ音楽は、ライブハウスの動員や、ストリーミングの収益増加、新興レーベルの設立が立て続けに起きるなど、若者を魅了するカルチャーの一大勢力となりつつある。その人気は日本でも知れ渡っている。ディスクユニオン新宿中古館・ブックユニオン新宿の担当者に聞いてみた。
「アジア音楽フェアを開催したときには、台湾インディーズのCDをまとめ買いしていったお客さんも数多くいました。アジア諸国と同様に、音楽性がバラエティーに富んでいるところが特徴で、そこが受け入れられている理由でもあるでしょう」
日本を代表する音楽フェスティバルである、フジロックフェスティバルに出演した「落日飛車」(サンセット・ローラーコースター)や、サマーソニックに出演した「大象體操」(エレファントジム)、りんご音楽祭に出演した「DSPS」らが代表的な存在。彼らは、日本でも一定の人気があり、コロナ禍以前までは、頻繁に日本でライブ活動を行っていた。
若者の「台湾意識」との隔たり
アジア諸国を音楽で魅了するかたわら、台湾の若者の間では、中国からの「一国二制度」への移行の圧力に対して、それに対抗する「台湾意識」と呼ばれる、独立意識が非常に高まっている。20代の間では、そういった中国との摩擦を意識しない「天然獨」という“生まれながらに独立派”という意味の造語が生まれた。
今年1月に行われた台湾総統選挙に勝利した民進党の蔡英文は、5月20日、総統として2期目をスタートさせ、就任演説を行った。総統選では、世界各所から台湾人の若者が帰省して投票する姿も注目された。もちろん若者の票だけで民進党が勝利したわけでないものの、政治意識の高さを見せつけるかたちとなった。
では、なぜごく普通に政治的な音楽が流通していた過去や、若者の政治意識の高さにもかかわらず、現代の台湾のインディーズ音楽のミュージシャンが、政治的要素を含む音楽を演奏しなくなったのか。
単に彼らの志向がおしゃれになっただけではなく、別の理由もあると語るのは「THE WALL」共同オーナーである寺尾ブッダさんだ。
「台湾のミュージシャンは、マーケットがそこまで大きくないので、海外を目指す傾向があります。昔から中国大陸や東南アジアに進出して、現地で成功を収めるミュージシャンも多いんですね。特に近年は中国大陸の音楽市場の成長が著しく、現地とのビジネスを重視している人たちにとっては、政治について言及するのは自身の活動の思わぬ障壁になるリスクもあって、難しいんです」
(大象體操は新型コロナウイルス感染症によって、困窮した日本の音楽業界を支援するため、クラウドファンディングを実施した)
「表現したいこと」と「マーケット」のはざまで
最後にスパイキーさんはこう語ってくれた。
「僕ら(30代)の世代は台湾のインディーズ音楽が、始まりは政治的な音楽だったというルーツをみんな知っているけど、表立っては言わないようになってしまいました。でも、僕は、音楽と政治は切っても切れないものだと思っています」
「やはり今、台湾で、中国とさまざまな問題があって、アーティストたちが表現するなかで、生活、仕事、恋愛などいろいろなテーマがある。そのなかに、『政治』がなかったらおかしいと思うんです。当たり前のようにあることが、自然ではないでしょうか」
台湾人の若者は本当に政治意識が高い。現地の若者と雑談をしていても、政治の話になることが多い。それほど、政治が生活と密接に結びついている。しかし、政治色が強い音楽だけがあふれるのも健全ではない。主義・主張関係なく、美しい音楽を聴きたいだけ、という人もいるだろうし、もちろん、ミュージシャンにも政治的なことに興味のない人もいるだろう。
つまり選択肢があることが重要なのだ。 すでに中国国内の音楽が充実しているので、台湾インディーズ音楽も中国で苛烈な競争に晒(さら)されている。
もし中国から撤退となったとき、マーケット拡大のためだけに政治色を消し去り、大陸進出したミュージシャンたちは、自分たちの態度が正しかったのかどうか、今度は、台湾のリスナーに試される番になる。そのときミュージシャンたちは、何を選択するのだろうか。
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