各界の第一線を走るクリエーター男女2人よる対談シリーズ「クロストーク」。
登場するのは、『奇界遺産』シリーズをはじめ国内外の奇妙な光景を撮り続ける写真家・佐藤健寿さんと、「ヒューストン・バレエ団」のプリンシパルを務めるバレエダンサーの飯島望未さんです。
今回の対談が初対面のおふたり。新年早々この対談が実現したのは、佐藤健寿さんが衝撃を受けたという飯島望未さんが出演している映像がきっかけでした。&Mの対談では、きっかけとなった映像の話から、2人の共通点の話に。&wの対談では、2人の緊張もほぐれたところで、お互いの仕事のことや日々の暮らしの話など、お互いの“ライフスタイル”について語り合っていただきました。
対談は、&Mと、&wに分けて掲載しています。
【&Mに掲載している記事はこちら】
![佐藤健寿×飯島望未](https://www.asahicom.jp/and_w/wp-content/uploads/2020/04/MG_8800_fbox-1.jpg)
佐藤健寿×飯島望未 「閉鎖的な業界」で活躍する2人の葛藤と生存戦略
プライベートではあえてバレエと関わらない。あえて起伏を作らない
佐藤 アメリカではどういう暮らしぶりなんですか?
飯島 バレエダンサーは「24時間バレエのことを考えています」みたいな超ストイックな人として、美化されやすいと思います。私もバレエが大好きだし、真剣です。でも、私はそれをするとたぶんバレエが嫌になるので、家ではバレエのことはなにもしないと決めています。
佐藤 すごくベタな話ですが、『ブラック・スワン』という映画があるじゃないですか。あの映画を見ると、ある種の閉鎖的な世界なのかなって感じはしますね。
飯島 閉鎖的だと思います。おつきあいする人も、カンパニー内や振付家と関係を持つという話も聞きますし。ねたみそねみもあるのかな。さすがに靴を隠したり画鋲(びょう)を入れたりはないかな(笑)。
佐藤 職場恋愛が多いんですね。
飯島 多いですね。バレエが終わってご飯に行くのもバレエの友達と行くとか、本当に閉鎖的です。時間がないというのもありますしね。
だからというわけではありませんが、違うジャンルの人と話をしてるほうがおもしろいです。それこそ、ファッション関連の方と関わることで、センスが磨かれる気がするし、ひとつひとつの動き、アングル、衣装の見せ方も、バレエとは全然違うかなと。
佐藤 どういうお友達がいらっしゃるんですか?
飯島 ファッション関係の方、写真家の方とか、クリエーターとか、だいぶ年の離れた会社員の方とか、外資系の商社で働いてる女性とか……。佐藤さんは、プライベートとお仕事のバランスはどうですか?
佐藤 写真は普段から撮るし、僕はあまり仕事と切り分けてないですね。逆にそうじゃないといけないみたいな面もあって。いろんな趣味が結局仕事にフィードバックされていくんですよ。なにひとつ無駄はないというか。
ただ、最近自分でも「よくない」ってちょっと思うんですけど、バレエだとステージという明確な発表場所があるじゃないですか。そこに向けて自分を調整していくヤマが定期的にある。でも僕の場合はないんですよね。以前、某番組のオファーがあった時も、「近々なんか発表みたいな場ってありますか?」って聞かれたんですよ。最後、みんなに拍手喝采されるような場面が。でも写真家はピークがない。
そんな起伏がない生活だから、実はぼく明後日からサウジアラビアに行くんです。でも、まだチケットも取っていなくて。格好もいつもこんな感じだし、このまま海外に行って帰ってきて、そのまままたすぐ東京に馴染(なじ)んで……。逆に起伏を作りたくない。だから海外に行っても和食があると一発目から和食に行きますよ。よくびっくりされますけど、体調維持のためだったりもして。
飯島 普通は最終日とかね、打ち上げがてら……。
佐藤 よくトカゲの丸焼きとか、悪食もものともしないとか思われているけど、ラーメン屋があれば、まずは行こうみたいな。環境の起伏が激しいので、自分は起伏したくないんです。だからこういう対談や撮影も苦手で。頑張って笑顔を作らないといけないじゃないですか。
飯島 あんまり喜怒哀楽も作らずコントロールしている?
佐藤 いや、してないですね。自然体というか、鈍感なんですよね。だからずっとこんな仕事していられるんだと思います。敏感だったらたぶん耐えられない。
飯島 私はめっちゃ激しいです。起伏が激しすぎて自分で疲れます。
佐藤 怒るところとか、あんまり想像がつかないですけどね。
飯島 怒っている時は自分に怒ってます。とにかく気分の浮き沈みが激しい。ひとりで号泣しているときもあります。
佐藤:あんまりそういうタイプに見えないから、うまくコントロールできてるんですね。外面がいいというか。
飯島:ああ、そうかもしれません(笑)。
やる気が出ない時にどうする?
佐藤: 5歳からずっとバレエをやってて人前に出続けてるなんて、自分からすれば本当に信じられないですね。「体調悪いから今日のステージは、なし」はできないですよね。
飯島 パフォーマンスの前に「もう今日は踊りたくない」って時が、ごくたまにあります。けど、そういう時は自分が成功している姿をイメージして、モチベーションを無理やりあげています。で、舞台に立つと切り替わる。
佐藤 終わった後でダッと疲れがくる?
飯島 そうです。出る前と後がしんどい。出たらめちゃめちゃ楽しいですけど。たとえ嫌いなパートナー相手でも、舞台の上では恋に落ちますし。さっき佐藤さんは起伏がないとおっしゃっていましたけど、ここ一番でがんばる瞬間ってないんですか?
佐藤 あえて挙げるなら、長々と時間をかけて撮影地に向かってる時ですね。講演とかメディアの仕事ばかりが続くとだんだん「何やってるんだろう、俺」って気持ちになってくるんですよ。自信がなくなってくる。だから、つい一昨日は長野の雪山の中、車を運転してすごくマニアックな、50~60人くらいの小さなお祭りを撮影したんですよ。結局、そういう時が一番確かなことをしている実感が得られる。運動でいうと筋トレや反復練習みたいなもので。わけわかんないところに1人で行って、1人で写真を撮ったりしているときに、ちょっと自信が戻ってくる。
飯島 行動力がすごい。
佐藤 バレエダンサーというお仕事は、年間通してどういったペースですか?
飯島 プログラムが年間7、8本あります。舞台がないときはツアーに行ったりおやすみだったり。毎日リハーサルはしていますが、ちゃんと週休2日ですよ。その他に、冬休み、夏休み、春休み、秋もたまに休みがあります。そのときは日本に帰国して他のことをしています。
スタイルを確立しないというスタイル
佐藤 いま飯島さんが特に意識していることってありますか?
飯島 プリンシパルという立場になると、指摘をされることが少なくなってくるじゃないですか。だからしょっちゅう先生やコーチに感想を聞きます。「ここはどうしたらいいか?」とか。変に自分のスタイルを確立してやっていくよりはいつまでも柔軟でいたいから。
佐藤 逆にスタイルを確立したいみたいな希望はないんですか? 飯島さんといえばあれだよねみたいな。
飯島 実際「飯島さんってこういう感じだよね」と言われることもありますけど、それは人が決めることかな。自分は常に変化している気がする。気分屋なので。
佐藤 クラシックバレエとコンテンポラリーバレエだったらどっちが好きなんですか?
飯島 私はコンテンポラリーのほうが好きです。でもクラシックはクラシックで全然違うから。私は悲劇が好きで、よく言われるのが悲しい表情がうまいねって。そういうのはすごく大好きですし、これからもやっていきたい。日本では物語全編を踊る機会がないから、知られてないかも。私は悲劇が得意なことを。
佐藤 将来的には世界で評価されたいのか、やっぱり日本人にも地元で評価されたいのかみたいなのはありますか?
飯島 欲をいえば両方ですけど、どうでしょうね。でも日本ではバレエを「広めたい」っていう夢があって、周りの後輩たちが活躍できる環境を整えたいと思っています。日本で「踊りたい」という気持ちはそこまでないかもしれないです。
佐藤 周りの後輩たちが活躍できる環境を整えたいというのは日本でのことですね。
飯島 そうするには日本で知名度を上げるしかなくて、自分の実力を認めてもらって。そうじゃないと説得力がないというか、バレエ関係者にも認めてもらわないと協力してもらえないと思いますし。
佐藤 ミュージックビデオに起用されるとか、ジャンルを越えるってことはうれしいことですか?
飯島 うれしいですね。
佐藤 伝統的な業界だったりすると、ちょっと変わったことをすると叩(たた)かれたりすることもあるじゃないですか。バレエはそういうことは特にないんですかね?
飯島 少し前まではありました。それこそ、私はちゃらんぽらんって思われていますが、今はジャンルを越えてバレエダンサーを起用する場面も増えましたしね。
バレエを「広めたい」という夢のために
佐藤 今日お会いして、日本人で有名バレエ団のプリンシパルってすごいことをされてると思うんですけど、こういうことを成し遂げてる人ってすごくもっと意識が高いストイックな喋(しゃべ)りをしそうなのに、全然そういう感じでもないのが意外でした。
飯島 はい。そんなにストイックじゃないです。じゃがりこ(スナック菓子)も食べます(笑)。
佐藤 じゃがりこ(笑)。
飯島 私も佐藤さんは気難しい人なのかなと思っていました。でも全然そんなことはなくて安心しました(笑)。起伏がなく平常心で肩肘張っていないし。
佐藤 そうですね。写真もそうですけど写真家になろうって思ったこともないし。やりたいことをやってたらそれがいつの間にか仕事になってるっていうのが常でした。自分はそんなだから、飯島さんを見たらちゃんとプロの世界で明確な評価基準があって、ライバルがいる中で続けていけるのは、僕からするとアスリートみたいに見えるんですよ。客観的評価が存在してる世界というか。
飯島 でもバレエも微妙ですよ。見ている人の評価もあるし。サッカーとかは点数がつくじゃないですか。勝ち負けがある。バレエはない。
佐藤 なるほど。でもぼくも賞金100万円の世界にいてはダメだなと思うので、40代はもうちょっと海外に行ってなんかやりたいなって。別に移住してどうこうって訳じゃないですけど。
飯島 個展とか?
佐藤 若い頃はまわりでも、「ニューヨークで個展やるぞ!」みたいなのはよくあるんですよ。でも個展をやることが目的になっちゃって、結果なにができたかってところまでいかないことが多い。だからそういうことにあまり興味がなかったんですけど、今はある程度土台ができたので、挑戦したい気もします。
バレエでも裾野を広げるためになにか新しい物語とかできないんですか? この前、歌舞伎で『スター・ウォーズ』をやってましたけど。
飯島 新国立劇場バレエ団は、『アラジン』とか『不思議の国のアリス』とかやっていますけど、全然知られてないんですよ。プロモーションの問題なのかな。
佐藤 ハイカルチャー的なものはハイカルチャーであっていいんですけど、ただ、あまりにもお金が入ってこない世界かなって思うんです。
飯島 バレエの洗練された雰囲気は崩したくないから、テレビのバラエティー番組に出たいわけではないし。だけど本当にお客さんを呼ぼうと思ったら……難しいですね。そう考えると、SNSは便利なツールですよね。
佐藤 ティックトックとかいいんじゃないですか。踊りだし。
飯島 佐藤さん一緒にやりません? 佐藤さんがするならやろうかな(笑)。
佐藤 無理ですよ(笑)。YouTuberとか開設してみたら面白いんじゃないですか?
飯島 私しゃべるの苦手なんで(笑)。
佐藤 関西弁でしゃべったらギャップがおもしろい。『ジゼル』っていうYouTube動画をみましたよ。スタジオで練習してる。あれをやってる方がバレエダンサーYouTuberみたいな。
飯島 そうです。私の後輩です。同じスタジオで育って、YouTube始めましたって。
佐藤 僕がおもしろいなと思ったのが、演技中はすごく優雅な動きをして、だけど袖にはけて行って端っこのほうでストレッチしてるところも写ってるんですよ。あれは舞台の上では見えないじゃないですか。白鳥は水面下ですごく足掻(あが)いてるっていうじゃないですか。本当にそういう世界なんだなって。
飯島 そうですね。袖に一歩入ったら吐きそうになってる。
佐藤 いつか生の舞台を観(み)てみたいですね。
飯島 まだはっきり決まっていませんが10月の舞台に出演するかも。
佐藤 写真を撮らせてください。
飯島 やったー! めっちゃ変なポーズばっかり撮られたらどうしよう(笑)。でも、廃虚(はいきょ)になったバレエ劇場なんかで撮ったらかっこいいかもしれないですね。
(構成・熊山准 撮影・関めぐみ)
互いに「全く接点のない世界の人」と感じながら始まったこの対談。話していくうちに「閉鎖的な業界で活動している」という共通点が見つかり、それぞれの仕事についてたっぷり語り合う展開に……。
【★対談の続きはこちら】
![佐藤健寿×飯島望未](https://www.asahicom.jp/and_w/wp-content/uploads/2020/04/MG_8800_fbox-1.jpg)
佐藤健寿×飯島望未 「閉鎖的な業界」で活躍する2人の葛藤と生存戦略
バックナンバー
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&w:トップアーティスト2人が語る「学ぶことは生きること。生きることはあじわうこと」
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April 17, 2020 at 03:02PM
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